思考志向

『「無限の苦しみ」と「有限の限りなく大きな苦しみ」』という記事を読んでみてください。

統計学的にブラック企業を認定する

 今の世の中では、ブラックだと噂されるような企業が数多く存在する。ただ、それはあくまで噂による推測である。また、表立っているブラック企業はごく一部であり、実際にはさらに多くのブラック企業があるはずだ。

  仮に、すべての企業を調べ上げ、数学的に明確な基準によって、ブラック企業を認定することができれば、その劣悪な労働環境は大きく改善していくだろう。明確な基準によってブラック企業が認定され、さらにそれが世間に公表されれば、その企業イメージは急落することで、売り上げが減り、新たに人を雇い入れることがほとんどできなくなる。そのイメージを回復するために、企業側は労働環境を改善せざるを得なくなるだろう。あいまいな基準によるブラック企業認定よりもはるかに効果は大きいはずだ。

 

 統計学の手法を用いれば、ブラック企業を客観的に認定することができるのではないかと考えられる。(私自身は統計学に詳しくないので、細かなことについては言及できない。)

 その具体的な調査方法は、

「日本の全労働者に対する、一定期間内における日本の労働者の死亡者数」―① 

と、

「ある企業の全労働者数に対する、一定期間内におけるその企業の労働者の死亡者数」―② 

を比較するというものである。

 

 ①は「日本の企業に勤めた場合の労働者の死亡率」を表している。①の死亡者数と②の死亡者数に統計学的に有為な差があると示されれば、②の企業はブラック企業だということになる。

 ブラック企業でなくても、労働することでどうしても少しは死亡する確率は上がってしまう。①の死亡者は、そうした平均的な企業の業務や、加齢などによる自然に起こりえる病気など、が要因となったものであると考えることができる。②の死亡率がそれよりも有意に大きいとすれば、そうしたこと以外の要因、すなわち、その企業の過重な業務や、その職場内の過度なストレスが要因となって死亡者数が増えている、ということだ。また、工場や工事現場など、身体的に危険な労働環境が要因となって死亡者数が上がる場合もある。

 

 年齢が高くなるほど死亡率が上がるので、日本全体の労働者の世代割合と、その企業の世代割合にズレがある場合は、正確な結果が出ない。その場合は、企業の世代割合を日本の労働者の世代割合に合わせるなど、複雑な計算が必要になるだろう。

 

 ここで指摘しておきたいのは、①や②における「死亡者」の中には、過労死や過労自殺だけでなく、労働からは全く起因しないようなあらゆる死因が含まれている、ということだ。明らかに労働が要因となったものや、労働とは全く関係のない要因によるもの、労働が要因になったかどうか微妙なもの、すべてが含まれている。病気、自殺、事故などである。

 本来なら、死亡者は過労死や過労自殺に限定するべきだが、過労死や過労自殺の正確な数を把握するのは難しい。

 万が一働きすぎによって労働者が過労死した場合は、労災などが認めら、遺族に対する補償が認められる場合がある。ただ過労死の中には、それが労働によるものだと完全に認められることが難しいような微妙なケースもある。また、遺族が労災の申請をしないことで、過労死が表に出ないということもあるはずだ。そのため、過労死や過労自殺の数は、労災として認定された数より実際には多くなるはずだ。

 ここで挙げている調査では、そうした正確な数を把握しづらい過労死や過労自殺という分類を使っていない。それによって、個々の亡くなられた方々が過労死によるものであったかどうかを調べることはできないが、企業ごとに労働者を死なせるような労働環境があるかどうかを調べることができる。

 

 ただこの調査には不十分な点もある。それは、病気になりやすい傾向の人を多く採用していたり、メンタルが元々弱い人が多いような企業は、ブラック企業でなかったとしても、②の死亡率が上がってしまう、ということだ。

 心身共に健康な人を採用したがる企業は多く存在するが、そこが仮に劣悪な労働環境だったとしても、ブラック企業だと認定されなくなってしまう可能性もある。

 

 このような点を克服できれば、ここで挙げた方法によって、客観的な基準によってブラック企業を認定することができるはずだ。